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大阪高等裁判所 平成元年(ラ)506号 決定

抗告人 外山典子 外1名

主文

原審判を取り消す。

本件を神戸家庭裁判所社支部へ差し戻す。

理由

1  本件抗告の趣旨及び実情(理由)は別紙のとおりである。

2  当裁判所の判断

(1)  一件記録によれば、抗告人両名の被相続人外山銀三は昭和63年4月4日死亡し、その相続人は、妻である抗告人外山典子、子である抗告人外山成美及び外山大介であるところ、抗告人両名は、同年9月30日に被相続人を債務者とする損害賠償請求の訴状の送達を受けて多額の債務の存在を認識したとして、同年12月29日原審に対し相続放棄の申述をしたことが認められる。

(2)  ところで、民法915条所定の3か月の熟慮期間は相続人が相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が相続人となった事実を知った時(本件では昭和63年4月4日)から原則として起算すべきであるが、相続人が右各事実を知った時から3か月以内に相続放棄をしなかった場合であっても、それが相続財産に多額の債務が存在しないと信じたためであり、そう信じることに相当の理由がある場合には、右債務の存在を認識したときから起算すべきものと解するのが相当である(最高裁判所昭和59年4月27日第二小法廷判決・民集38巻6号698頁参照)。

(3)  これを本件についてみると、抗告人外山成美は原審において、被相続人外山銀三の債務は「○○開発という実質弟の会社の社長をしていた関係からの負債で、実質は弟がつくった借金であり1億円以上あると思います。」と供述するのみで、右債務の内容(債権者・債務者・債権額・発生原因・発生日時等)及び抗告人両名が右債務の存在を知るに至った日時・経緯ないし被相続人の死亡を知った時から3か月以内に相続放棄の申述をしなかった事情等については供述していない。また同抗告人は「○○信用金庫の2600万円の請求につき、裁判所から私と母に支払命令が来ました。それは9月です。」と供述しているけれども、右支払命令に記載された債権の内容、それが被相続人の債務であるか否か、抗告人両名が右債務の存在を知った日時等については供述をしていないし、記録を精査しても、被相続人の債務の内容、抗告人両名がこれを知るに至った日時・経緯等その他前記の諸点についてはこれを確定するに足りる資料はなんら存在しない。そして右の諸点について審理を尽くさなければ、抗告人両名が前記の3か月以内に相続放棄の申述をしなかったことに前記(2)の「相当の理由」があったか否かを確定することはできないものと認められる。

(4)  しかるに原審は、右の諸点について審理をすることなく、抗告人両名が被相続人と同居していたことのみを理由に、被相続人死亡当時右両名は多額の債務の存在を知っていたものと推認し、本件相続放棄の申述が熟慮期間経過後のものであると即断してこれを却下したのであって、この点において原審判は取消しを免れない。

(5)  よって、原審判を取り消し、前記の諸点についてさらに審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 栗山忍 裁判官 川勝隆之 中村隆次)

(別紙)

抗告の趣旨

原審判を取り消し、本件を神戸家庭裁判所社支部に差戻すとの裁判を求めます。

抗告の実情

1 抗告人外山典子の夫で、同外山成美の父である外山銀三は、昭和63年4月4日に死亡した。

2 抗告人らは、被相続人と同居しており、死亡の事実及抗告人らが、相続人となったことを知ったことは事実であるが、それまで、親娘3人が平穏無事に普通の生活をしていました。

3 ところが、昭和63年9月末日になって、債権者から被相続人の相続人として、損害賠償等の請求があって初めて債務が存することを知ったものであります。

4 そこで、申述人らは該債務について、申述人外山典子の長男で、申述人外山成美の弟でもある相続人外山大介に債務について糺したところ外山銀三及び申述人らに無断で、外山銀三を、同人が事実上経営する株式会社○○開発の代表取締役にして、その実権を握り会社を経営していた。

5 外山銀三の金融機関に対する債務についても外山大介が、亡外山銀三に無断且つ抗告人らにも一切知らせず、借り入れをしていたもので、外山銀三の死亡時には、抗告人らには、一切これを知らされていなかった。

6 抗告人らが、これらの事実を知ったのは、昭和63年9月末日に債務の支払いの請求を受けて、初めて債務の存在を知ったので、相続放棄の申述を却下した原審判は不当です。

7 よって抗告の趣旨どおりの裁判を求めるため、この申立をします。

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